『 いただきます ― (3) ― 』
びくっ ・・・ !
ジョーは縮み上がったが 捧げ持っていた鍋は辛うじてキープした。
「 あ あの ・・・ あのう〜〜〜 」
「 なにね! 」
料理人の表情は 険しい。
「 あ な 鍋の温度 ・・・ まだ低いです か?
一応 熱してきたんですけど 」
「 はあ? 」
「 だから あの・・・ すぐにしゃぶしゃぶできるようにって
あの ガスで ・・・・ 」
「 ほんで すぐにお肉を放り込む いうのんか 」
「 ・・・ あの ・・・ だめ・・? 」
ふう 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ・・・・・
大人は ふか〜〜いため息を吐いた。
「 もうええ。 ジョーはん、 あんたもうそこに座ってなはれ。 」
「 え で でも ぼくが鍋奉行 ・・・ 」
「 こないなこと、言いとうなかったけどな。
ジョーはん。 あんた お箸の持ち方、違いまっせ 」
「 え?? そ そう?? でも ぼく ず〜〜〜っとコレで
あの ゴハンも ラーメンも なんでも食べてるんですけど 」
「 ほんなら このシラタキ 一本挟めますかいな。
この薄切りのお肉、端っこを挟んで お鍋の中を泳がせられますやろか 」
「 え・・・ あ〜〜〜 そのぅ ・・・ 」
「 あのな。 フランソワ―ズはんのほうが ず〜〜っと上手やで
嬢や、練習しはったんか? 」
「 え いえ あのう〜〜〜 お箸ってテコの原理でしょう?
それをアタマに入れておけば お箸は合理的に使えるわ 」
フランソワーズが ごく当たり前みたいな顔をしている。
「 てこ??? ・・・あ〜〜 小学校の理科でやった・・・かな? 」
「 とにかく。 あんさん そこに座ってよ〜〜〜く見てなはれ。 」
「 ・・・ へへ 〜〜〜 」
料理人の一瞥に ジョーは平身低頭した。
権限は移譲され この時点でジョーは鍋奉行を失職した。
「 ほんなら。 お鍋 始めまほ 」
大人は に〜〜〜んまり・・・ 掘りごたつを囲む面々を見回した。
「「 よろしく 〜〜 」」
人々は 塗りのお箸を手に に〜〜んまり。
「 あのな。 お肉はんは もうこのまんまでオイシイんや。
そのうま味をわけていただく。 そんで お野菜やお豆腐を
もっともっと美味しくいただく。 それが 鍋料理やで。 」
貸してみなはれ − と この熟達した料理人は ジョーから菜箸を奪った。
「 ほな。 ええか。 お出汁の温度をよ〜くみる。
ああ グレートはん 簡易コンロに点火してくれへんか 」
「 承知。 」
ボ ッ 卓上で温かい火が点った。
「 ふ〜ん ・・・ まず やなあ 」
料理人の華麗な箸捌きが はじまった。
ふ〜〜〜〜〜 ・・・ ああ 美味しかったぁ〜〜〜
ほぼ空!の鍋を真ん中に 全員が満足の吐息をもらす。
「 ・・・ どうしましょう・・・ こんなに食べていいのかしら
最後の うどん まで もう最高・・・ 」
パリジェンヌが ピンク色の頬で笑っている。
「 う〜〜む・・・ 吾輩は完全に胃に支配されてしまったなあ 」
名優氏は 優雅な手つきで塗りの箸を箸置きにもどした。
もちろん 手元には猪口とグラスが健在だ。
「 ああ うむ うむ ・・・ 満足じゃなあ 」
チリン ・・・ ギルモア博士は静かにグラスを乾した。
「 ほんになあ〜 どの銘酒もご馳走に合ってすばらしい〜〜 」
当家のご当主も 猪口を乾す。
「 ほっほ〜〜〜 美味しゅうございましたなあ〜〜
皆はん ご満足のご様子 ・・・ ええこっちゃ 」
料理人は ほぼ空の鍋と大皿をながめ満足の笑みを浮かべている。
「 ・・・? ジョーはん? どないしはってん? 」
「 ・・・ ぼく、 やっぱ箸の持ち方 ヘン かな 」
茶髪の若者は 手にした塗りの箸をつくづくと眺めている。
「 左様 お主の使い方はマナーに反する部分もあるぞ 」
「 そっか・・・ 」
「 あの ね ジョー。 さっきも言ったけど ・・・
テコの理論って習ったでしょう?
支点と力点があるの。 それを使えば大丈夫よ 」
フランソワーズは 使っていた塗りの箸を取り上げ
器用に動かしつつ説明してくれた。
「 マドモアゼル、 ほんに優雅に使うなあ 」
「 フラン ・・・ ありがとう。 そっか・・・ そうなんだ?
ぼく コドモのころのまんま な〜んも考えなんで持ってた・・・ 」
練習するよ と ジョーは大皿の底に散らばったシラタキを
一筋づつ拾い集め始めた ― まだ かなり苦戦していたけど。
「 ほんなら ちょいと片付けまっせ〜〜 」
「 あ 食器はこちらね わたし 片づけるわ 」
「 ぼく 大皿と鍋、台所に運びますね 」
若者たちは さっさと食器類を持っていった。
「 さあさ お食後でっせ〜〜〜 美味しいアイスクリイムや ! 」
カチャ カチャ −− 大人が新しい皿を乗せてワゴンを押してきた。
「 ジョーはん クーラーボックス、持ってきてはりまっか 」
「 あ おっけ〜〜〜〜♪ わあい デザートだあ 」
「 ほっほ・・・ ブランディも用意しましょうかな 」
「 おお〜 コズミ先生 フランベ ですかい 」
「 ご明察〜〜 」
「 フランベ? ・・・って 火を点けるんですか?
え アイスクリームに?? 」
フランソワーズが大きな瞳をますます大きくしている。
「 だって ・・・火 つきます?? 」
「 お嬢さん。 ブランディを垂らしてですね そこに ぼ! です 」
「 え お料理では見たこと、ありますけど アイスも? 」
「 さあさ どうなるか まずはご覧くだされや 」
コズミ博士は もうにこにこ・・・ ブランディの瓶とライターを引き寄せる。
わっせ わっせ ・・・ ジョーが両手でクーラーボックスを運んできた。
「 ただいま 到着〜〜 う〜〜ん カチコチに冷えてますよぉ 」
「 お〜〜 ええなあ ジョーはん、それな まずは いっこづつ
こんお皿にあけてんか。 」
「 了解です〜〜 えいっ えいっ 」
がんがちのアイスクリームを ジョーは腕力? に物を言わせ
カップを裂いて中身をガラスのお皿においてゆく。
「 ほっほ〜〜 上出来やで〜〜〜
あ この大きいのんは またの機会にとっときましょうなあ 」
「 はあい クーラー・ボックスに戻して 廊下で大丈夫かしら 」
「 頼むで 嬢や 」
カチャ カチャ カチン。 コトン。
大人はフランベ 点火の準備をしている。
「 さあ〜〜 皆はん お席に着かれはりましたか〜 」
「「 はあい 」」
「 ほな〜〜 グレートはん ブランディ 頼みまっせぇ〜〜
あ どぼり、やのうて たら〜り でええさかい
お〜〜っと あんさんのお腹に入れたらあかんでぇ 」
「 合点承知! 」
「 おっと ジョーはん、電気のスイッチ 切ってや 」
「 了解 」
ぽ ぽ ぽ ぽ 〜〜〜〜〜
暗闇に華やかな炎がぱあ〜〜っと上がり ― 消えた。
わあ 綺麗! これは 美しい ・・・ はあ ・・・
皆の吐息が消えないうちに電気が灯った。
「 さあ〜〜 目ぇの御馳走の次は 舌にもあげてや 」
「 いっただっきまあす 」
これは 美味じゃ ふむふむ この溶け具合がいいなあ
う〜〜む〜〜 妙なる味わい・・・
! ねえ これ。美味しいわ! カンカチじゃなくて
・・・ 燃えても溶けちゃわないんだねえ〜
皆 それぞれ感嘆の吐息を発しつつ スプーンを忙しく動かしていた。
「 おいし♪ それにキレイだったよねえ〜 クリスマスみたいだ 」
「 ふふふ そうね。 ああ 美味しい〜〜 」
「 なんかさ いつものアイスとは別物みたいだね 」
「 うん♪ あ ・・・ どうしましょう〜〜〜
もうお腹いっぱい・・・って思ってたのに また食べちゃった!
うわ〜〜〜 ・・・ 明日 絶食だわ わたし 」
「 いいじゃん 少しくらい太っても。
きみって いつもこ〜〜んなに細いんだもの。 」
「 ジョー〜〜〜 無責任なこと、いわないでよう〜〜
休み明けのレッスンで 鏡をみられないわ わたし。
・・・ 明日から ジョギングする! 」
「 あ〜 じゃあ ぼくも付き合おうかな
ね 一緒に海岸とか走ろうよ! 」
「 あ〜ら 朝 起きられますう? 」
「 ・・・ う ・・・ ど 努力 シマス 」
「 アテになりませんね〜〜
ああ 今日は素敵なお風呂に入らせていただいて
すご〜〜くオイシイ晩御飯♪ ああ シアワセ 〜〜 」
「 ふふふ そうだよね〜〜 鍋ってさ。
皆で食べるから余計にオイシイんだと思うな 」
「 そうね そうね ね 日本酒 って美味しいわ! 」
「 あ〜 フランってば かなり飲んだの? 」
「 あ〜らそうでもない ・・・ はず・・・ えへへ
あのね わたし 日本酒の冷たいのがすき(^^♪ 辛口の白ワインみたい 」
「 うん そうかも〜〜 ぼくはハイ・ボール 好きかも 」
一応未成年の二人は 今日体験した < 大人の味 > について
語りあう。
「 ワカモノ達よ ちょいとお耳を 」
グレートが すこしも顔には出ていないが おそらくかなりきこしめした様子で
割って入ってきた。
「 なあに? ・・・ あ〜 ねえ かなり飲んでるでしょ? 」
「 まあまあ このくらいは普通ですな。
いやね ウチの御大がどうやら御休みのご様子 − こちらにお願いするかい 」
「 え?? あ あらあ・・・ 博士ってば 」
「 あ〜あ こりゃもう完全に沈没かなあ 」
ギルモア博士は 掘りごたつを枕にもう軽くイビキも掻いている。
「 ほっほ・・・ どうぞウチにご滞在くだされや。
明日は朝から いつものスーパー家政婦殿がみえますし・・・
ご心配ご無用ですよ 」
コズミ博士は 案外飄々としていて 酔っているのかどうかもわからない。
「 でも ・・・ 」
「 う〜ん ・・・ フラン、お願いしようよ?
そのかわり 後片付けはぼくたちが 」
「 あ そうね そうね。 」
若者たちは 身軽にコタツから脱出した。
年長者たちは ぬくぬくとコタツで温まりつつ 未練気に
グラスだの猪口を乾している。
こッ ・・・・ 最後の一滴がグラスに落ちた。
「 ん〜〜〜〜 ・・・ ま いい。 〜〜〜 んま 」
ほんの僅かの雫を咽喉に注ぎ グレ―トはしみじみと味わっている。
「 まあだ 飲んではるんかいな。 ええ加減でおきなはれ 」
大人が 無慈悲にもグラスを取り上げた。
「 ・・・ おお なんともつれない仕打ちを ・・・ 」
「 あんさん ほんまにザルでんな〜〜 もうええやろ 」
「 へいへい ・・・ 」
グレートは 仕方無しに猪口を伏せた。
「 ・・・ あ〜〜〜 いい晩餐でしたな 」
「 ほんになあ〜 コズミ先生、御礼申し上げまっせ〜〜 」
「 いやいや ワシもこんなに美味しく楽しい晩餐は久々ですな・・・
どのご酒もけっこうなことで 」
コズミ老は 心地よ〜〜く酔いを満喫しているらしい。
「 ほんで ウチの御大をお願いしても ほんまによろしゅうおまっか 」
「 はいな。 どうぞご安心を・・・ この座敷にお布団、延べれば
ぽかぽか温かいですわな 」
「 美味なる牛肉と 美味なる銘酒と ともに深く御礼を〜〜 」
名優氏は 優雅にお辞儀をした。
「 いや なに ・・・ 後片付けまでやって頂いて・・・
ほんに こちらこそすまんですなあ 」
コズミ老は ちら・・・っと台所の方に視線をなげる。
カチャ カチャ ザ −−− うふふ そ〜かあ〜〜
皿洗いの音と共に楽し気な声も流れてきている。
二人とも 酔いで少々浮かれているらしい ・・・
「 な〜んや あの子ぉら、陽気やなあ ま ええこっちゃ 」
「 最近 ワカモノ達もいろいろ ― 忙しかったらしいし。
ジョーは バイトに励んでおったしなあ 」
「 そや。 あの子ぉは ほんまによう働くええ子ぉやで 」
「 マドモアゼルとはお似合いだな 」
「 お嬢は真面目でしっかり者や。 あの子ぉをしっかり
捕まえて躾けてくれはるやろ 」
「 ま ・・・ な。 オトコは惚れた相手次第でどうにでも変われるサ 」
「 ふん? 実感でっか 」
「 ・・・ 年長者のアドバイス ってヤツさ 」
パチン。 グレートは軽くウィンクしてみせた。
「 そやなあ ・・・ いずれは なあ ・・・・
ふ〜〜む せやけど。 今 若いお嬢はんをオオカミと二人きり、
いうのんは ちいと感心せえへんなあ 」
「 お 左様 左様。 風紀委員としては、黙認できませんな。
よかろう。 我々が監視を兼ねて泊まり込み だ。 」
「 そうしまっか。 荷物はオオカミはんのクルマに頼も。 」
「 合点。 」
「 だいたい片づけました〜〜〜 大人〜〜 チェックしてくれるかな 」
ジョーが 割烹着のまま現れた。
「 ほう ・・ あんさん よう似合いますなあ 」
「 え そう?? これ いいよね? なんか懐かしいし 」
「 なつかしい?? 」
「 そ。 小学校の給食当番 ! ・・・ って わかんないかあ〜〜
こんな恰好でね お昼ごはんを配るんだ。
酢豚 とか スパゲッティ とかね こうやってさ 」
「 へえ ・・・ 皆で同じものを食べるの? 」
フランソワーズの割烹着姿も なかなか可愛らしい。
「 そ。 結構美味しいメニュウもあったよ〜 」
「 ふうん ・・・ 面白いわねえ 」
「 フランスの学校って どうなの? 給食とかない? 」
「 ランチは皆 お家に帰る子もいればランチ・ボックスもってくる子も
いたわね。 たいてい カスケードとかだけど 」
「 かすけーど?? 」
「 ほら あのバゲットにハムとチーズを挟んだヤツ 」
「 あ あれ! ぼく 好き〜〜 美味しいよね〜〜
アレにさあ レタスときゅうり、挟むともっと美味いよぉ 」
「 お野菜はね サラダで食べるの。 カスケードは ハムとチーズだけよ。
ジョーって なんでもかんでも一緒くたにしたいのね〜 」
「 あ〜 そうかも〜〜 サンドイッチもさあ こう〜〜〜
具をいろいろ挟んで デブったのを大口あけて ガブ がいいな 」
「 ジョーらしいけど。 」
パン パン ・・・! 布巾を広げつつ料理人が戻ってきた。
「 はいはい〜〜。 お二人さん、キレイに片してくれておおきに。
ほんなら 御大はこちらにお願いして ウチらは失礼しまほか 」
「「 はあい 」」
「 ジョーはん。 いろいろ荷物・・・ 車にたのんまっせ 」
「 了解〜〜 フラン、きみの持ち物も積み込むよ〜〜
ひざ掛けもショールも必要なかったね 」
「 お願いね。 あ 博士の < お泊り > 用に・・・
えっと・・・ 新しいタオルと え〜〜と
博士のショルダー・バッグに外套にマフラー。
コズミ先生、そうぞお願いいたしますね 」
「 はいな。 お預かりしますよ。 どうぞ ご安心なされや 」
「 ありがとうございます。 あの 明日 ご連絡いたしますので 」
「 はいはい あ〜 もう年寄同士、気楽にやりますよって
お嬢さんはお気使いなく 」
「 ええ ・・・ でも ・・・ 」
「 フラン〜〜〜 そろそろ出発するよぉ〜〜〜 」
玄関の外から ジョーが呼んでいる。
「 はあい ! それじゃ コズミ先生
今日は本当にありがとうございました 」
フランソワーズは膝に手を当てて 深くお辞儀をして玄関を出た。
「 ジョー。 お待たせ〜〜 あら グレート達は? 」
「 ここに詰まっておるぞ〜〜 マドモアゼル〜〜 」
後部座席から ご機嫌ちゃんの声が聞こえた。
「 ワテもおるよ〜〜 グレートはん! 寄りかからんといて〜〜 」
「 おう これは失敬 失敬。
あ〜〜〜 大人? もう少し詰めてもらえんだろか 」
「 ― いっぱい アルよ! 」
「 ふうん? なあ ボーイ、お主の愛車はトクベツに車体の幅が
狭く出来ておるのかね? 」
「 さあ 出発しますよ〜〜 え? なに??
なんか言った?? グレート 」
ドライバーは 後部座席を振り返る。
「 そやから! グレートはん、ワテに寄りかからんといて、
いうてますのんや〜〜 」
「 別に普通に座っておるだけだぞ? ジョー〜〜〜
この車 狭いぞ〜〜〜 」
「 ?? なに?? なに言ってるのぉ? 」
「 ジョー。 ・・・ もういいから車、出して。 」
フランソワーズは ちらっと後ろを一瞥しただけで冷静に言い放つ。
「 でも なんか言ってるから ・・・ 」
「 いいの。 酔っ払いの戯言よ。 相手にする必要、ないわ。
大丈夫、ウチに着く前に静かになる。 」
「 え ・・・ そ そう???
だって あんなにごちゃごちゃ言ってるよ? 」
「 いいの。 さ 出発して。 気になるなら耳栓でもしたら?」
「 いや それは・・・ わかったよ
後ろの方々! シートベルト 着用願いマス〜〜〜 」
「「 ・・・ 了解 」」
「 はい では ドルフィン 発進! じゃなくて
クルマ でま〜す〜〜〜 」
「 グレートはん そら ワテのしーとべると やで 」
「 お〜 これは失敬。 え〜〜い まとめてシート・ベルト!」
「 むぎゅう〜〜〜〜 ・・・ 壊れますがな
」
後部座席はしばらく ごたごた呻き声まで聞こえていたが ―
ザザザ −−−−− クルマは国道から私道に曲がった。
「 さあ 坂、上るからね〜〜 ・・・? あれ? 」
ドライバー君は 一応注意喚起したが ― 反応がない。
「 あれ?? な なんか静か だよね? ちょっと止めて 」
「 あ ジョー。 止めなくて大丈夫。 このまま行って。 」
「 え でも ・・・ あれ? なんかヘンな音が ・・・ 」
ガ 〜〜〜〜〜 ゴ〜〜〜〜〜 ゴゴゴゴ 〜〜〜〜
「 え?? ど どうしたんだ 二人とも?? 」
「 だ〜から。 大丈夫よ。 二人とも ― すっかり沈没 」
「 え?? ・・・ あ もしかして この怪音 ・・・ イビキ?? 」
「 ぴんぽ〜〜ん。 さ 熟睡してる酔っ払いは放っておきましょ。
あ ジョー エアコン、最大にしてよ ・・ お酒くさ〜〜 」
「 あ うん ・・・ これで 平気? 窓も開けようか 」
「 そうね ― あ〜〜〜〜 気持ちい〜〜〜〜 」
「 ふふふ それじゃ ウチへ向かって 発進 !!! 」
ザザザザ −−−− 車は急坂をするすると上っていった。
「 ・・・ ね? 素敵な晩餐だったわね ・・・ 」
「 ウン♪ 最高だよ ・・・ 」
「 さあ ウチに付いたら最後のチカラ仕事よ 009さん 」
「 え な なに ・・・ 」
「 後ろの酔っ払いを約二名。 寝室に放り込むの! 」
「 わああ〜〜〜 重労働だなあ・・・ ねえ 003さん? 」
「 わたくし、チカラ仕事には適応いたしませんの。
ふふふ ・・・ ご褒美、用意しておくから 」
「 え ご褒美? 」
「 そ。 食べ過ぎた胃にも優しい ミルク・ジュレ。
出掛ける前に作って冷やしてあるわ 」
「 わっほ〜〜〜〜〜〜〜 」
「 そして それから ね? 」
「 あ ・・・ うん♪ 」
ガッタン。 ジョーの愛車は我が家の前に到着した。
― しばらくの後
ゴソゴソ カサカサ ー ー ー
ほんわり温かい彼女の寝室では ・・・
「 クリスマスはさあ フランの煮込み すご〜〜〜く美味しかったよお 」
「 ・・・ え そう・・・?
あのポトフは 本当に家庭料理なんだけど 」
「 それ! それが食べたいんだ ぼく。 」
「 あの・・・ ウチで食べてたみたいので いいの? 」
「 うん! ぼく 煮込みとか好きだよ 」
「 そう? それじゃ ・・・ え〜〜と
魚介類とかトマト味で煮込んだの とか どう? 」
「 え! おいしそう〜〜〜〜 この辺りはさ 魚、いいのがあるよぉ
貝 とかも使うの ? 」
「 ええ。 あと玉ねぎと人参とセロリと。 ウチはジャガイモ、
入れたけど ・・・ そうじゃないバージョンもあるのよ 」
「 ふうん〜 食べたい!! フランのおウチ・煮込み! 」
「 わかったわ 」
「 わい♪ ねえ 今度さ〜〜 魚屋さん、一緒にいこ? 」
「 いいわね〜〜 海の側ですもんね〜〜 」
「 そうだよね あ〜〜〜 お腹いっぱいでシアワセ〜〜〜 」
パタン。 ジョーは長い腕を彼女のすべすべした背中に回した。
「 ふ〜〜〜〜〜 ・・・・ あ フラン なんかいい匂いするよ?
〜〜〜〜〜 ・・・ 森の奥みたい 」
「 ふふふ だから これ、お風呂の香よ。 いのき? 」
「 ・・・ ああ 桧かあ ・・・ い〜〜におい〜 」
彼は彼女の胸に顔を埋めてい深呼吸をする。
「 うふふふ くすぐったいてばあ ふふふ ・・・ 気に入った? 」
「 ん♪ ものすご〜〜く ・・・ きみは いい匂い♪ 」
「 ふふふ ね ウィスキーも サケ・ライムも 美味しかったわね
お家でなら 飲んでもいいわよね〜 」
「 ・・・ ん ・・・ おいし〜 き み も♪ 」
「 ふふふ ・・・ うふふ♪ 」
ぽわん。 今度はフランソワーズが彼の胸に頬を埋める。
― そう ・・・ 酔っぱらって寝てしまった < 風紀委員 > を
尻目に ワカモノたちは いつもの通り、ベッドの中・・・ なのである。
さて この邸では現在の晩御飯は シチュウやらミート・ローフ ポーク・ピカタ
コートレット ( カツレツ − とんかつ ではない ) などなどだけれど。
その後、だんだんと 筑前煮 だの 肉ジャガ だの カレーライス だの
ハンバーグ コロッケ ( クロケット ではない ) がハバを利かせ始める。
「 ここは お肉もお魚もお野菜も なんでもオイシイわあ〜〜〜
ね? 焼きたてパン屋さん もできたのよ バゲット オイシイの♪ 」
フランソワーズは ご機嫌ちゃんである。
「 そうなんだ? ねえ フランのお握り おいしいなあ〜〜〜
チーズ入りって新鮮〜〜〜 」
「 まあ 嬉しいわ〜 ゴハンって不思議ねえ・・・
和風以外のオカズにもちゃ〜〜〜んと 合うのね 」
「 そうです♪ ゴハンは 万能です。 」
「 あのクッキング・マシン、 使いこなすわ わたし! 」
「 あは 炊飯器 っていうんだよ〜 」
そして。 このウチに新しい顔が増え、小さな手でスプーンを動かすようになると
ギルモア邸の朝ごはんメニュウは またまた 変わった。
・・・ と言うより かつてジョーが夢見て?いたモノに近くなる。
「 朝? ええ タイマーで炊きたてご飯よ。 チビ達も食べられるわ。
お味噌汁もね〜〜 実をジャガイモとかすばるもお野菜、食べてくれるの。
すぴか? なんでも大好きよ。 お豆腐とネギのお味噌汁とか大好きよ 」
「 え? そうね オムレツは必須なの。
でもねえ・・・ 何回言ってもジョーは < ウチのたまごやき > って
言うのよ〜〜〜 ・・・ ま 美味しそうに食べるから いいけど ね 」
主婦で母で この邸の女主人はにこやかにそう宣う。
「 ウチのご飯が最高だよ〜〜 」
ジョーは今でも本気で言う。 本気で信じている。
いっただっきまあす♪
今日も 皆 満面の笑みで箸を取り上げる。
************************** Fin. **********************
Last updated : 01.13.2023.
back / index
*************** ひと言 **************
なんてこと ないハナシ は なんてことなく 終わります☆
ま 新年ですから おめでた〜〜く ちゃん ちゃん♪ (*^^*)