『  いただきます  ― (3)  』

 

 

 

     びくっ ・・・ !

 

ジョーは縮み上がったが 捧げ持っていた鍋は辛うじてキープした。

「 あ  あの ・・・  あのう〜〜〜 」

「 なにね! 」

料理人の表情は 険しい。

「 あ  な 鍋の温度 ・・・ まだ低いです か? 

 一応 熱してきたんですけど 」

「 はあ? 」

「 だから あの・・・ すぐにしゃぶしゃぶできるようにって

 あの ガスで ・・・・ 」

「 ほんで すぐにお肉を放り込む いうのんか 」

「 ・・・ あの ・・・ だめ・・? 」

 

     ふう 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ・・・・・

 

大人は ふか〜〜いため息を吐いた。

「 もうええ。 ジョーはん、 あんたもうそこに座ってなはれ。 」

「 え で でも ぼくが鍋奉行 ・・・ 」

「 こないなこと、言いとうなかったけどな。

 ジョーはん。 あんた お箸の持ち方、違いまっせ 

「 え?? そ そう?? でも ぼく ず〜〜〜っとコレで

 あの ゴハンも ラーメンも なんでも食べてるんですけど 」

「 ほんなら このシラタキ 一本挟めますかいな。

 この薄切りのお肉、端っこを挟んで お鍋の中を泳がせられますやろか 」

「 え・・・ あ〜〜〜 そのぅ ・・・ 

「 あのな。 フランソワ―ズはんのほうが ず〜〜っと上手やで 

 嬢や、練習しはったんか? 」

「 え いえ   あのう〜〜〜 お箸ってテコの原理でしょう?

 それをアタマに入れておけば  お箸は合理的に使えるわ 

フランソワーズが ごく当たり前みたいな顔をしている。

「 てこ???  ・・・あ〜〜 小学校の理科でやった・・・かな? 」

「 とにかく。 あんさん そこに座ってよ〜〜〜く見てなはれ。 」

「 ・・・ へへ 〜〜〜 」

料理人の一瞥に ジョーは平身低頭した。

権限は移譲され この時点でジョーは鍋奉行を失職した。

 

「 ほんなら。  お鍋 始めまほ 

 

大人は に〜〜〜んまり・・・ 掘りごたつを囲む面々を見回した。

「「 よろしく 〜〜 」」

人々は 塗りのお箸を手に に〜〜んまり。

「 あのな。 お肉はんは もうこのまんまでオイシイんや。

 そのうま味をわけていただく。 そんで お野菜やお豆腐を

 もっともっと美味しくいただく。 それが 鍋料理やで。 」

貸してみなはれ − と この熟達した料理人は ジョーから菜箸を奪った。

「 ほな。 ええか。 お出汁の温度をよ〜くみる。

 ああ グレートはん 簡易コンロに点火してくれへんか 」

「 承知。 」

 

   ボ ッ  卓上で温かい火が点った。

 

「 ふ〜ん ・・・ まず やなあ 

料理人の華麗な箸捌きが はじまった。

 

 

 

    ふ〜〜〜〜〜 ・・・ ああ  美味しかったぁ〜〜〜

 

ほぼ空!の鍋を真ん中に 全員が満足の吐息をもらす。

「 ・・・ どうしましょう・・・ こんなに食べていいのかしら 

 最後の うどん まで もう最高・・・ 」

パリジェンヌが ピンク色の頬で笑っている。

「 う〜〜む・・・ 吾輩は完全に胃に支配されてしまったなあ 」

名優氏は 優雅な手つきで塗りの箸を箸置きにもどした。

もちろん 手元には猪口とグラスが健在だ。

「 ああ うむ うむ ・・・ 満足じゃなあ 」

チリン ・・・ ギルモア博士は静かにグラスを乾した。

「 ほんになあ〜 どの銘酒もご馳走に合ってすばらしい〜〜 」

当家のご当主も 猪口を乾す。

「 ほっほ〜〜〜  美味しゅうございましたなあ〜〜

 皆はん ご満足のご様子 ・・・ ええこっちゃ 

料理人は ほぼ空の鍋と大皿をながめ満足の笑みを浮かべている。

「 ・・・? ジョーはん? どないしはってん? 」

「 ・・・ ぼく、 やっぱ箸の持ち方 ヘン かな  」

茶髪の若者は 手にした塗りの箸をつくづくと眺めている。

「 左様 お主の使い方はマナーに反する部分もあるぞ 」

「  そっか・・・ 」

「 あの ね  ジョー。  さっきも言ったけど ・・・

 テコの理論って習ったでしょう? 

 支点と力点があるの。 それを使えば大丈夫よ 」

フランソワーズは 使っていた塗りの箸を取り上げ

器用に動かしつつ説明してくれた。

「 マドモアゼル、 ほんに優雅に使うなあ 」

「 フラン ・・・ ありがとう。  そっか・・・ そうなんだ?

 ぼく コドモのころのまんま な〜んも考えなんで持ってた・・・ 」

練習するよ と ジョーは大皿の底に散らばったシラタキを 

一筋づつ拾い集め始めた ― まだ かなり苦戦していたけど。

「 ほんなら ちょいと片付けまっせ〜〜 」

「 あ 食器はこちらね  わたし 片づけるわ 」

「 ぼく 大皿と鍋、台所に運びますね 」

若者たちは さっさと食器類を持っていった。

 

「 さあさ お食後でっせ〜〜〜 美味しいアイスクリイムや ! 」

 

カチャ カチャ −− 大人が新しい皿を乗せてワゴンを押してきた。

「 ジョーはん  クーラーボックス、持ってきてはりまっか 」

「 あ おっけ〜〜〜〜♪ わあい デザートだあ 」

「 ほっほ・・・ ブランディも用意しましょうかな 

「 おお〜 コズミ先生 フランベ ですかい 」

「 ご明察〜〜 」

「 フランベ? ・・・って 火を点けるんですか?

 え  アイスクリームに?? 」

フランソワーズが大きな瞳をますます大きくしている。

「 だって ・・・火 つきます?? 」

「 お嬢さん。  ブランディを垂らしてですね そこに ぼ! です 」

「 え お料理では見たこと、ありますけど アイスも? 」

「 さあさ どうなるか まずはご覧くだされや 」

コズミ博士は もうにこにこ・・・ ブランディの瓶とライターを引き寄せる。

 

  わっせ わっせ ・・・  ジョーが両手でクーラーボックスを運んできた。

 

「 ただいま 到着〜〜  う〜〜ん カチコチに冷えてますよぉ 」

「 お〜〜 ええなあ  ジョーはん、それな まずは いっこづつ

 こんお皿にあけてんか。 

「 了解です〜〜   えいっ  えいっ 」

がんがちのアイスクリームを ジョーは腕力? に物を言わせ

カップを裂いて中身をガラスのお皿においてゆく。

「 ほっほ〜〜 上出来やで〜〜〜  

 あ この大きいのんは またの機会にとっときましょうなあ 」

「 はあい  クーラー・ボックスに戻して 廊下で大丈夫かしら 

「 頼むで 嬢や 」

 

   カチャ カチャ カチン。   コトン。

 

大人はフランベ 点火の準備をしている。

「 さあ〜〜  皆はん お席に着かれはりましたか〜 」

「「 はあい 」」

「 ほな〜〜 グレートはん ブランディ 頼みまっせぇ〜〜

 あ どぼり、やのうて たら〜り でええさかい 

 お〜〜っと あんさんのお腹に入れたらあかんでぇ 」

「 合点承知! 」

「 おっと  ジョーはん、電気のスイッチ 切ってや 」

「 了解 

 

   ぽ  ぽ   ぽ  ぽ  〜〜〜〜〜

 

暗闇に華やかな炎がぱあ〜〜っと上がり ― 消えた。

 

     わあ 綺麗!    これは 美しい ・・・  はあ ・・・

 

皆の吐息が消えないうちに電気が灯った。

「 さあ〜〜 目ぇの御馳走の次は 舌にもあげてや 」

「 いっただっきまあす 」

 

   これは 美味じゃ  ふむふむ この溶け具合がいいなあ

 

   う〜〜む〜〜 妙なる味わい・・・

 

   ! ねえ これ。美味しいわ! カンカチじゃなくて

 

   ・・・ 燃えても溶けちゃわないんだねえ〜

 

皆 それぞれ感嘆の吐息を発しつつ スプーンを忙しく動かしていた。

 

「 おいし♪  それにキレイだったよねえ〜 クリスマスみたいだ 」

「 ふふふ そうね。 ああ 美味しい〜〜 」

「 なんかさ いつものアイスとは別物みたいだね 」

「 うん♪  あ ・・・ どうしましょう〜〜〜

 もうお腹いっぱい・・・って思ってたのに また食べちゃった!

 うわ〜〜〜 ・・・ 明日 絶食だわ わたし 

「 いいじゃん 少しくらい太っても。

 きみって いつもこ〜〜んなに細いんだもの。 」

「 ジョー〜〜〜 無責任なこと、いわないでよう〜〜

 休み明けのレッスンで 鏡をみられないわ わたし。

 ・・・ 明日から ジョギングする! 」

「 あ〜 じゃあ ぼくも付き合おうかな 

ね 一緒に海岸とか走ろうよ! 」

「 あ〜ら 朝 起きられますう? 」

「 ・・・ う ・・・ ど 努力 シマス 

「 アテになりませんね〜〜  

 ああ 今日は素敵なお風呂に入らせていただいて

 すご〜〜くオイシイ晩御飯♪  ああ シアワセ 〜〜 」

「 ふふふ そうだよね〜〜 鍋ってさ。

 皆で食べるから余計にオイシイんだと思うな 」

「 そうね そうね  ね 日本酒 って美味しいわ! 」

「 あ〜  フランってば かなり飲んだの? 」

「 あ〜らそうでもない ・・・ はず・・・ えへへ

 あのね わたし 日本酒の冷たいのがすき(^^♪  辛口の白ワインみたい 」

「 うん そうかも〜〜  ぼくはハイ・ボール 好きかも 」

一応未成年の二人は 今日体験した < 大人の味 > について

語りあう。

「 ワカモノ達よ  ちょいとお耳を 」

グレートが すこしも顔には出ていないが おそらくかなりきこしめした様子で

割って入ってきた。

「 なあに?  ・・・ あ〜 ねえ かなり飲んでるでしょ? 」

「 まあまあ このくらいは普通ですな。

 いやね ウチの御大がどうやら御休みのご様子 − こちらにお願いするかい 」

「 え?? あ あらあ・・・ 博士ってば 」

「 あ〜あ  こりゃもう完全に沈没かなあ 」

ギルモア博士は 掘りごたつを枕にもう軽くイビキも掻いている。

「 ほっほ・・・ どうぞウチにご滞在くだされや。

 明日は朝から いつものスーパー家政婦殿がみえますし・・・

 ご心配ご無用ですよ 」

コズミ博士は 案外飄々としていて 酔っているのかどうかもわからない。

「 でも ・・・ 」

「 う〜ん ・・・ フラン、お願いしようよ?

 そのかわり 後片付けはぼくたちが  」

「 あ そうね そうね。 」

若者たちは 身軽にコタツから脱出した。

年長者たちは ぬくぬくとコタツで温まりつつ 未練気に

グラスだの猪口を乾している。

 

      こッ ・・・・  最後の一滴がグラスに落ちた。

 

「 ん〜〜〜〜 ・・・ ま いい。  〜〜〜 んま 」

ほんの僅かの雫を咽喉に注ぎ グレ―トはしみじみと味わっている。

「 まあだ 飲んではるんかいな。 ええ加減でおきなはれ 」

大人が 無慈悲にもグラスを取り上げた。

「 ・・・ おお なんともつれない仕打ちを ・・・ 」

「 あんさん ほんまにザルでんな〜〜  もうええやろ 

「 へいへい ・・・ 」

グレートは 仕方無しに猪口を伏せた。

「 ・・・ あ〜〜〜  いい晩餐でしたな 」

「 ほんになあ〜  コズミ先生、御礼申し上げまっせ〜〜 」

「 いやいや ワシもこんなに美味しく楽しい晩餐は久々ですな・・・

 どのご酒もけっこうなことで 」

コズミ老は 心地よ〜〜く酔いを満喫しているらしい。

「 ほんで ウチの御大をお願いしても ほんまによろしゅうおまっか 」

「 はいな。 どうぞご安心を・・・ この座敷にお布団、延べれば

 ぽかぽか温かいですわな 」

「 美味なる牛肉と 美味なる銘酒と ともに深く御礼を〜〜 」

名優氏は 優雅にお辞儀をした。

「 いや なに ・・・ 後片付けまでやって頂いて・・・

 ほんに こちらこそすまんですなあ 

コズミ老は ちら・・・っと台所の方に視線をなげる。

 

   カチャ カチャ ザ −−−    うふふ  そ〜かあ〜〜

 

皿洗いの音と共に楽し気な声も流れてきている。

二人とも 酔いで少々浮かれているらしい ・・・

 

「 な〜んや あの子ぉら、陽気やなあ  ま ええこっちゃ 」

「 最近 ワカモノ達もいろいろ ― 忙しかったらしいし。

 ジョーは バイトに励んでおったしなあ 」

「 そや。  あの子ぉは ほんまによう働くええ子ぉやで 」

「 マドモアゼルとはお似合いだな 」

「 お嬢は真面目でしっかり者や。  あの子ぉをしっかり

 捕まえて躾けてくれはるやろ 」

「 ま ・・・ な。 オトコは惚れた相手次第でどうにでも変われるサ 」

「 ふん? 実感でっか 

「 ・・・ 年長者のアドバイス ってヤツさ 」

 

   パチン。  グレートは軽くウィンクしてみせた。

 

「 そやなあ ・・・ いずれは なあ ・・・・

 ふ〜〜む せやけど。 今  若いお嬢はんをオオカミと二人きり、

 いうのんは ちいと感心せえへんなあ 」

「 お 左様 左様。  風紀委員としては、黙認できませんな。

 よかろう。 我々が監視を兼ねて泊まり込み だ。 」

「 そうしまっか。  荷物はオオカミはんのクルマに頼も。 」

「 合点。 」

「 だいたい片づけました〜〜〜 大人〜〜 チェックしてくれるかな 」

ジョーが 割烹着のまま現れた。

「 ほう ・・ あんさん よう似合いますなあ 」

「 え そう?? これ いいよね? なんか懐かしいし 」

「 なつかしい?? 」

「 そ。 小学校の給食当番 !  ・・・ って わかんないかあ〜〜

 こんな恰好でね お昼ごはんを配るんだ。

 酢豚 とか スパゲッティ とかね  こうやってさ 」

「 へえ ・・・ 皆で同じものを食べるの? 」

フランソワーズの割烹着姿も なかなか可愛らしい。

「 そ。 結構美味しいメニュウもあったよ〜  」

「 ふうん ・・・ 面白いわねえ 」

「 フランスの学校って どうなの? 給食とかない? 」

「 ランチは皆 お家に帰る子もいればランチ・ボックスもってくる子も

 いたわね。 たいてい カスケードとかだけど 

「 かすけーど?? 」

「 ほら あのバゲットにハムとチーズを挟んだヤツ 」

「 あ あれ! ぼく 好き〜〜 美味しいよね〜〜 

 アレにさあ レタスときゅうり、挟むともっと美味いよぉ 」

「 お野菜はね サラダで食べるの。 カスケードは ハムとチーズだけよ。 

 ジョーって なんでもかんでも一緒くたにしたいのね〜 」

「 あ〜 そうかも〜〜 サンドイッチもさあ こう〜〜〜

 具をいろいろ挟んで デブったのを大口あけて ガブ がいいな 」

「 ジョーらしいけど。 」

 

 パン パン ・・・!     布巾を広げつつ料理人が戻ってきた。

 

「 はいはい〜〜。  お二人さん、キレイに片してくれておおきに。

 ほんなら 御大はこちらにお願いして ウチらは失礼しまほか 

「「 はあい 」」

「 ジョーはん。 いろいろ荷物・・・ 車にたのんまっせ 

「 了解〜〜  フラン、きみの持ち物も積み込むよ〜〜 

 ひざ掛けもショールも必要なかったね 」

「 お願いね。  あ 博士の < お泊り > 用に・・・

 えっと・・・ 新しいタオルと   え〜〜と

 博士のショルダー・バッグに外套にマフラー。 

 コズミ先生、そうぞお願いいたしますね 」

「 はいな。 お預かりしますよ。 どうぞ ご安心なされや 」

「 ありがとうございます。  あの 明日 ご連絡いたしますので 」

「 はいはい あ〜 もう年寄同士、気楽にやりますよって

 お嬢さんはお気使いなく 

「 ええ  ・・・ でも ・・・ 」

 

「 フラン〜〜〜  そろそろ出発するよぉ〜〜〜 」

 

玄関の外から ジョーが呼んでいる。

「 はあい !  それじゃ コズミ先生 

 今日は本当にありがとうございました 」

フランソワーズは膝に手を当てて 深くお辞儀をして玄関を出た。

 

「 ジョー。 お待たせ〜〜  あら グレート達は? 」

「 ここに詰まっておるぞ〜〜 マドモアゼル〜〜 」

後部座席から ご機嫌ちゃんの声が聞こえた。

「 ワテもおるよ〜〜  グレートはん! 寄りかからんといて〜〜 

「 おう これは失敬 失敬。 

 あ〜〜〜 大人? もう少し詰めてもらえんだろか 」

「 ― いっぱい アルよ! 」

「 ふうん?  なあ ボーイ、お主の愛車はトクベツに車体の幅が

 狭く出来ておるのかね? 」

「 さあ 出発しますよ〜〜    え? なに?? 

 なんか言った?? グレート 」

ドライバーは 後部座席を振り返る。

「 そやから!  グレートはん、ワテに寄りかからんといて、

 いうてますのんや〜〜 」

「 別に普通に座っておるだけだぞ?  ジョー〜〜〜 

 この車 狭いぞ〜〜〜 

「 ?? なに?? なに言ってるのぉ? 」

「 ジョー。  ・・・ もういいから車、出して。 」

フランソワーズは ちらっと後ろを一瞥しただけで冷静に言い放つ。

「 でも なんか言ってるから ・・・ 」

「 いいの。 酔っ払いの戯言よ。 相手にする必要、ないわ。

 大丈夫、ウチに着く前に静かになる。 」

「 え ・・・ そ そう??? 

 だって あんなにごちゃごちゃ言ってるよ? 」

「 いいの。 さ 出発して。 気になるなら耳栓でもしたら?」

「 いや それは・・・  わかったよ 

 後ろの方々! シートベルト 着用願いマス〜〜〜 」

「「 ・・・ 了解 」」

「 はい では ドルフィン 発進!  じゃなくて

 クルマ でま〜す〜〜〜 

「 グレートはん そら ワテのしーとべると やで 

「 お〜 これは失敬。 え〜〜い まとめてシート・ベルト!」

「 むぎゅう〜〜〜〜  ・・・ 壊れますがな  

 

後部座席はしばらく ごたごた呻き声まで聞こえていたが ―

 

     ザザザ −−−−−  クルマは国道から私道に曲がった。

 

「 さあ 坂、上るからね〜〜  ・・・? あれ? 」

ドライバー君は 一応注意喚起したが ―  反応がない。

「 あれ?? な なんか静か だよね?  ちょっと止めて 」

「 あ ジョー。 止めなくて大丈夫。 このまま行って。 」

「 え でも ・・・ あれ? なんかヘンな音が ・・・ 」

 

   ガ 〜〜〜〜〜  ゴ〜〜〜〜〜  ゴゴゴゴ 〜〜〜〜

 

「 え?? ど  どうしたんだ   二人とも?? 」

「 だ〜から。 大丈夫よ。  二人とも ― すっかり沈没 」

「 え??  ・・・ あ もしかして この怪音 ・・・ イビキ?? 」

「 ぴんぽ〜〜ん。  さ 熟睡してる酔っ払いは放っておきましょ。

 あ ジョー エアコン、最大にしてよ ・・ お酒くさ〜〜 」

「 あ うん ・・・ これで 平気? 窓も開けようか 」

「 そうね  ―  あ〜〜〜〜 気持ちい〜〜〜〜 」

「 ふふふ それじゃ ウチへ向かって 発進 !!! 」

 

    ザザザザ −−−−   車は急坂をするすると上っていった。

 

「 ・・・ ね? 素敵な晩餐だったわね ・・・ 」

「 ウン♪  最高だよ ・・・ 」

「 さあ ウチに付いたら最後のチカラ仕事よ  009さん 」

「  え な なに ・・・ 」

「 後ろの酔っ払いを約二名。 寝室に放り込むの! 」

「 わああ〜〜〜 重労働だなあ・・・  ねえ 003さん? 」

「 わたくし、チカラ仕事には適応いたしませんの。

 ふふふ ・・・ ご褒美、用意しておくから 」

「 え ご褒美? 」

「 そ。  食べ過ぎた胃にも優しい ミルク・ジュレ。

 出掛ける前に作って冷やしてあるわ 」

「 わっほ〜〜〜〜〜〜〜 」

「 そして それから  ね? 」

「 あ ・・・ うん♪ 」

 

      ガッタン。  ジョーの愛車は我が家の前に到着した。

 

 

 ― しばらくの後

 

 

    ゴソゴソ   カサカサ  ー ー ー

 

ほんわり温かい彼女の寝室では ・・・

「 クリスマスはさあ  フランの煮込み すご〜〜〜く美味しかったよお 」

「 ・・・ え  そう・・・? 

 あのポトフは 本当に家庭料理なんだけど 」

「 それ! それが食べたいんだ ぼく。 」

「 あの・・・ ウチで食べてたみたいので いいの? 」

「 うん! ぼく 煮込みとか好きだよ 」

「 そう? それじゃ ・・・ え〜〜と

 魚介類とかトマト味で煮込んだの とか どう? 」

「 え! おいしそう〜〜〜〜 この辺りはさ 魚、いいのがあるよぉ 

 貝 とかも使うの ? 」

「 ええ。 あと玉ねぎと人参とセロリと。  ウチはジャガイモ、

 入れたけど ・・・ そうじゃないバージョンもあるのよ 」

「 ふうん〜 食べたい!!  フランのおウチ・煮込み! 

「 わかったわ 」

「 わい♪ ねえ 今度さ〜〜 魚屋さん、一緒にいこ? 」

「 いいわね〜〜  海の側ですもんね〜〜 

「 そうだよね   あ〜〜〜 お腹いっぱいでシアワセ〜〜〜 」

 

   パタン。  ジョーは長い腕を彼女のすべすべした背中に回した。

 

「 ふ〜〜〜〜〜 ・・・・ あ フラン なんかいい匂いするよ?

 〜〜〜〜〜 ・・・ 森の奥みたい 

「 ふふふ だから これ、お風呂の香よ。  いのき? 

「 ・・・ ああ 桧かあ ・・・ い〜〜におい〜 」

彼は彼女の胸に顔を埋めてい深呼吸をする。

「 うふふふ  くすぐったいてばあ   ふふふ ・・・  気に入った? 」

「 ん♪  ものすご〜〜く ・・・ きみは いい匂い♪ 」

「 ふふふ   ね  ウィスキーも サケ・ライムも 美味しかったわね

 お家でなら 飲んでもいいわよね〜  」

「 ・・・ ん ・・・ おいし〜  き み も♪ 」

「 ふふふ ・・・ うふふ♪ 」

 

   ぽわん。  今度はフランソワーズが彼の胸に頬を埋める。

 

 ― そう ・・・ 酔っぱらって寝てしまった < 風紀委員 > を

尻目に ワカモノたちは いつもの通り、ベッドの中・・・ なのである。

 

 

さて この邸では現在の晩御飯は シチュウやらミート・ローフ  ポーク・ピカタ

コートレット ( カツレツ − とんかつ ではない ) などなどだけれど。

その後、だんだんと 筑前煮 だの 肉ジャガ だの カレーライス だの

ハンバーグ  コロッケ ( クロケット ではない ) がハバを利かせ始める。

「 ここは お肉もお魚もお野菜も なんでもオイシイわあ〜〜〜 

 ね? 焼きたてパン屋さん もできたのよ  バゲット オイシイの♪ 」

フランソワーズは ご機嫌ちゃんである。

「 そうなんだ?  ねえ フランのお握り おいしいなあ〜〜〜

 チーズ入りって新鮮〜〜〜 

「 まあ 嬉しいわ〜 ゴハンって不思議ねえ・・・

 和風以外のオカズにもちゃ〜〜〜んと 合うのね 

「 そうです♪ ゴハンは 万能です。 」

「 あのクッキング・マシン、 使いこなすわ わたし! 

「 あは 炊飯器 っていうんだよ〜 」

 

そして。  このウチに新しい顔が増え、小さな手でスプーンを動かすようになると

ギルモア邸の朝ごはんメニュウは またまた 変わった。

・・・ と言うより かつてジョーが夢見て?いたモノに近くなる。

 

「 朝?  ええ タイマーで炊きたてご飯よ。 チビ達も食べられるわ。

 お味噌汁もね〜〜 実をジャガイモとかすばるもお野菜、食べてくれるの。

 すぴか? なんでも大好きよ。 お豆腐とネギのお味噌汁とか大好きよ 」

「 え? そうね オムレツは必須なの。  

 でもねえ・・・ 何回言ってもジョーは < ウチのたまごやき > って

 言うのよ〜〜〜  ・・・ ま 美味しそうに食べるから いいけど ね 」

主婦で母で この邸の女主人はにこやかにそう宣う。

「 ウチのご飯が最高だよ〜〜  」

ジョーは今でも本気で言う。 本気で信じている。

 

              いっただっきまあす♪  

 

       今日も 皆 満面の笑みで箸を取り上げる。

 

**************************       Fin.     **********************

Last updated : 01.13.2023.              back      /      index

 

***************   ひと言   **************

なんてこと ないハナシ は なんてことなく 終わります☆

ま 新年ですから おめでた〜〜く  ちゃん ちゃん♪  (*^^*)